その他
2018.11.8 (更新日:2022.7.22)
OODAとはアメリカ空軍のジョン・ボイド大佐によって提唱された戦略理論であり、孫子の兵法やトヨタの経営方式をベースにしているともいわれています。
現在では、PDCAサイクルにかわってビジネスの現場でも広く利用されていますが、その理論について正しく理解されている方も少ないのではないでしょうか。
ここでは、OODAをビジネスで活用できるよう、簡単に解説しています。
OODAループは機動性に富んだ戦略理論であり、Observe(観察)・Orient(情勢判断・方向づけ)・Decide(決心)・Act(実行)という4つのプロセスから成り立ちます。
OODAとは、これらのプロセスの頭文字をとったものです。
ここではそれぞれの段階について簡単に解説します。
OODAループではまず「観察」から入ります。
顧客などの「相手」、市場などの「環境」、さらには自分自身をじっくりと観察して、出来る限り的確に正確な情報(データ)を収集します。
観察をするために、何がしかの行動をする必要も求められるシーンも多いでしょう。たとえば相手にいろいろな質問を投げかけて情報を集めるのも、基本的な観察の手法といえます。マーケティングの現場であれば市場分析なども、このプロセスの一例です。
観察のプロセスでは、既存の計画や思考にとらわれず、現場においてリアルな生の情報を収集することが求められます。
観察の次にくるプロセスがOrient(情勢判断・方向づけ)です。Observeのプロセスで集めた情報の意味を理解し状況の判断をするのが「情勢判断」です。
そして「方向づけ」とは、情勢判断の内容に基づいて戦略の方向性を決めることをさします。OODAループでは、迅速に行動決定を行うことが重視されます。
Orient(情勢判断・方向づけ)で決定した方向性に基づいて、意思決定(決心)をするフェーズです。前プロセスまでに定めた方向性に基づいて、具体的な計画を決定します。
空軍のパイロットが戦闘機の中で、刻々と変わる戦況に合わせ次にとるべき行動を判断するための戦略理論だけあって、OODAループはリアルな個人の行動に即したモデルと言えます。
空中で戦闘機を操縦するパイロットには、次にどんな行動をするべきかいちいち上官に相談する余裕はありません。狭い機内において自分自身で考え、そして速やかに決定する、というスピード感が求められるのです。
最後のプロセスは、当然ながらAct(実行)です。Observe(観察)からDecide(決定)までのプロセスで決定した計画を実行に移します。
このとき重要なのは、Actによって周囲の環境や状況が変化するという点です。変化するということは、改めてObserve(観察)が必要となります。
つまりOODAループでは、このようにしてObserve(観察)からAct(実行)へいたる流れを繰り返し、「行動を実行(Act)にうつしたらすぐに観察(Observe)のプロセスに戻って繰り返す(ループする)」わけです。
OODAループの概要をつかんだところで、PDCAサイクルとの違いをみていきましょう。なぜPDCAサイクルからOODAループへ切り替える企業がでてくるのかがわかる筈です。
まず簡単に、PDCAサイクルはどういったものだったか、振り返っておきましょう。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)という4つのプロセスによる、円滑に業務をすすめるための手法です。
Plan・Do・Check・Actionそれぞれの頭文字をとって「PDCA」という言葉が成り立っています。
まず「Plan(計画)」とは、目標の設定や目標を達成するための仮説の構築、それに基づいた計画策定の段階です。
誰が誰に対し、なぜにいつ何をどう行うのかといった5W1Hを細かく決めていきます。
「Do(実行)」は、計画を実行にうつすことをさします。
このとき、次の段階を適切に行うため、時間や数値などの客観的なデータや、その方法が有効だったか否かも記録しておくことが重要です。
「Check(評価)」は、計画通りに実行できたかを検証する段階です。
実行した結果に対する評価を行います。このとき、「Do(実行)」の段階できちんとデータをとっておくことで、評価の精度がより高まります。
逆に十分なデータがなければ、この段階が成り立たないので、PDCAサイクルを適切に回すことができません。
最後の「Action(改善)」とは、Check(評価)の結果で確認された課題に対して、改善を実行する段階です。
計画を続けるか中止するか、はたまた改善して継続するかもこの時点で決定します。
また計画を継続する場合は、改めて「Plan(計画)」に戻り、改善の内容を反映させます。
最後に、PDCAサイクルをまわす例をウェブ記事の執筆を例にとってみてみましょう。
たとえば既存のウェブサイトにおいて、1ヵ月間に30記事投稿し、1ヵ月後にPVを月間10,000増やすという計画(PLAN)をたてるとします。
読者のニーズがどのようなものであるかや、そのニーズに対してどのような記事を執筆すべきか考えるのもこの段階に必要な点です。
そして、計画の内容に従い記事を執筆。日々のアクセス数・記事の投稿状況など必要なデータを記録しておきます。これが実行「Do」の段階にあたります。
30記事の執筆・公開まで完了できたら、想定したような結果が出たか評価(Check)します。
ここで目標を達成できていなかったとしたら、ニーズを正しくつかめていなかったのではないかや、宣伝を適切に実施できていたかなどを見直すことが必要です。
そして評価(Check)した内容をもとに改善策(Act)を実施します。
例えばニーズの掴み方を変えてみることや宣伝の仕方を考え直してみたりするのも1つの例です。
PDCAサイクルが一通り回ったら、前のサイクルでとりまとめた改善策をベースに改めて計画(Plan)を行います。(改めてPDCAサイクルをまわします。)
OODAループとPDCAサイクルの大きな違いは、PDCAサイクルが計画(PLAN)の立案からスタートするのに対し、OODAループでは相手や状況の観察から入るという点です。
このためPDCAサイクルではOODAループと比較すると準備に時間がかかり、柔軟性にかけ臨機応変な対応が必要な現場に即していない面があります。
たいするOODAループはあくまで現場の目線で構築された手法であり、PDCAのようにじっくり腰をすえて取り組まないといけないプロセスがないため、機動性にすぐれスピーディな実行が可能です。
またPDCAサイクルではPLAN実行後の評価や改善のためにもプロセスが重視され、一方のOODAループでは現場の観察や状況判断が重要とされます。
プロセスの進行中も、そのプロセスのチェック(数値の記録や有効か否かの判断など)を綿密に行う必要があるので、観察からすぐに行動にうつるOODAと比べるとスピードが遅くなります。
といってもPDCAサイクルも業界形態によっては優れた手法であり、決して使えないわけではありません。もともとPDCAサイクルは工場の生産性向上のために生み出された手法です。
工場のようなルーチンワーク主体の現場であれば、営業などのようなその時々の臨機応変な対応は求められることは少ないためPDCAサイクルも有効なのです。
1つ1つのプロセスを丁寧にチェックし、その結果をフィードバックしながら先にすすむことができます。
前述したようにOODAループは戦闘機のパイロットが直面する目まぐるしく変わる戦況のようなものに常に適切に対応するための手法です。
そんな「目まぐるしさ」に常に付き合わないといけないなら、そもそも予定調和のルーチンワークを前提とする工場での大量生産は成り立ちません。
これらのことから、顧客ニーズがこくこくと「目まぐるしく」変わる現代では、PDCAサイクルのスピード感では対応できず、OODAループの迅速性が市場や現場に求められる可能性が高くなります。
PDCAのデメリットとは、計画をたてるのに時間がかかること、計画の内容を細かく指定しすぎると予期せぬ環境の変化に対応できないことがあげられます。
Act(改善)にうつるまでにPlan(計画)・Do(実行)・Check(評価)という3つのプロセスそれぞれに、じっくり時間をかける必要があるのもデメリットです。
たいするOODAループは、繰り返すように現場に必要な機敏性が重視されており、個人の観察(Observe)やOrient(情勢判断・方向づけ)にてその後の対応を素早く意思決定(決心)し、行動(Act)にうつることができます。
またOODAループであれば、仮に想定されなかった環境の変化が生じたとしても、すぐに観察(Observe)に戻って修正しプロセスを先にすすめることが可能です。
そのため常に状況が変わって常に臨機応変な対応が必要となる現場においては、PDCAサイクルのデメリットをOODAループがカバーすることができます。
この章の結論から先に書くと、OODAループ・PDCAサイクルは平行して進めることも十分に可能です。それぞれが利用されるべきシーンが異なるためです。
前述した工場での生産性向上を改めて例にとって考えてみましょう。
すでにある程度の生産性が確保された工場でさらに生産性を伸ばしたいようなときには、天地がひっくり返るような想定外が起こる状況は考えづらいでしょう。
既存のノウハウを微修正するだけでも、驚くような改善につながる場合もあり得ます。また現時点でも一定の生産性をあげられていることから、PDCAサイクルをまわすにあたってそれほどのスピード感も求められません。
こういった現場であれば、ゆっくり丁寧に進められるPDCAサイクルが適切というわけです。
一方、その工場で作った製品を営業するシーンを例にとってみましょう。
この場合、どう変化するか分からない顧客に対して臨機応変に対応する必要があります。突然、得体のしれない競争相手が現れることもありますし、自社の製品を想像した以上に気に入ってくれて、思った以上の数を用意してほしいと言われることも考えられないわけではありません。
競争相手は待ってくれませんから、相手に勝つための営業施策をスピーディに立てる必要があります。
また製品の生産が顧客の要望を満たせないのであれば、顧客のニーズをくわしくヒアリングし、できるだけ要望に沿うように段階的な納品を行うなどを速やかに決定する必要がある場合もあるでしょう。
このようにシーンに合わせてPDCAサイクル・OODAループを適用する必要があるわけです。
シーンごとに適切に使い分けることで、PDCAサイクル・OODAループの平行した運用が可能、というよりそれが必要となる場合もあります。
OODAループでは、社員個人に任せられる裁量の部分が大きくなるため、個人の基本的な能力が高くなければ使えません。指示を待ってから動くような人には適用できないわけです。
そのため臨機応変な対応が必要となりOODAループの適用と想定される営業のような部門から少しずつ導入していき、成功事例を積み重ねることが重要です。これにより全体への定着を促すことができます。
またOODAループは、仮に失敗してもすぐに観察(Observe)に戻って立て直すことができる手法です。
逆にいえばむしろとにかく行動して失敗し、それをフィードバックすることがOODAループでは奨励されます。
そのためOODAループを適用する場合には、失敗に対して寛容な環境作りも必要です。
PDCAサイクルに代わるとされるOODAループは、変化の早い現代に即したスピーディな対応が求められるときに特に有効です。
ただ全てにおいてOODAループが適しているというわけではなく、工場での生産性向上のようなシーンではOODAの方が向いています。
OODAループ・PDCAサイクルそれぞれの適正を理解し、必要に応じて使い分けることが重要です。